(new!) オンライン講座の受講生募集

4月26日(金)から、NHKカルチャーセンターでオンライン講座を担当します。カントや倫理学に対する事前知識があっても、なくても構いません。対話形式で進めるので、みなさんの理解度や関心にそって講座を進めていきます。

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そこに根拠はあるのか

Novak Đoković カント倫理学

カントは特定の行為を悪とは見なしません。純粋な善意志に発していれば、それは道徳的に善なのです。ただ、その道徳的善のためにはいくつかの必要条件をクリアしていなければなりません。そのひとつが道徳法則に則っていることであり、その道徳法則を導くためには、それが道徳法則たりうる根拠がなければなりません。コロナウイルスに絡めて言えば、ワクチンを打たなくたって、人に会ったって(自粛しなくたって)、マスクしなくたって(実定法は別ですが)道徳的には許容される可能性は十分にあるのです。そこにしっかりした根拠さえあれば。

自分の理性を用いるということは、私たちの〔自身がどうするべきかに関する〕仮説について、次のことを自分自身に問うことに他ならない。つまり、私たちの仮説の根拠、あるいは、私たちの仮説から帰結する規則を、その理性使用の普遍的原則とすることができるかどうかを自分自身に問うことである。(カント「思考の方向を定めるとはいかなることか」)

ノバク・ジョコビッチの例

男子テニス世界ランキング一位のノバク・ジョコビッチ選手がオーストラリアオープンに参加するために同国に入ったものの、書類に不備があったために、ビザを取り消され、国外退去処分を受けました。

書類の不備とは、具体的には「二週間の間に旅行に行ったか」という質問に対して、「いいえ」と答えているものの、実際には自宅のあるモナコ以外に、故郷のセルビアやスペインなどに滞在していたことが明らかになっているのです。

ワクチンについて

同じく一流テニスプレーヤーであるラファエル・ナダルはジョコビッチに対して「ワクチンを打てば済むことなのに」と述べています。そうなのです、オーストラリア入国もワクチンを接種していれば、(どの国に寄ろうが構わないので)虚偽記載などする必要なく、すんなり入国できたはずなのです。

先ほどジョコビッチはスペインにも入国していることについて言及しましたが、スペインもワクチンを打っていない人間は本来入国できないことになっているのです。ここにも虚偽記載の疑念が持たれているのです。

では、なぜジョコビッチはワクチンを接種しないのでしょうか。彼ははっきりとは答えていません。去年の4月の時点で、「体に異物を入れるのはいやだ」という趣旨の発言をしていたという証言があります。

ナダル「接種すればいいだけのこと」…大騒動化してもなぜジョコビッチはワクチン接種を拒否し続けるのか?〈5つの違反疑惑まで〉(山口奈緒美)
世間はざわつき、「特別扱いだ」と騒ぐ人々もいたが、ここまで事態がこじれ、これほど疑惑が持ち上がるとは予想もしなかった。ことの発端は何であったかも忘れるほどだ。ここで一度、この10日ほどの間にジョコビッチが犯したとされるルール違反と疑惑を整理...

しかし、これだけではあまりにもぼんやりし過ぎています。ジョコビッチのみならず、人間は日常的に異物を体内に入れているはずであり、そのなかでなぜコロナワクチンだけを例外視するのか、その根拠が知りたいのです。ワクチン全般が嫌なのか、コロナワクチンが嫌なのか、その点も不明です。

または彼の元コーチがジョコビッチには現代医学を避ける傾向があることを認めています。

https://wowowtennisworld.jp/news/detail/article-2022011503.html

しかし、これもジョコビッチ自身の発言ではなく、元コーチの推測を含んだ私見が述べられているに過ぎず、曖昧さが拭えません。

このようにジョコビッチ自身はワクチンを接種しない理由についてそれまでは、はっきりと語ってこなかったのですが、去年の12月になって突然「医学的な理由がある」と言い出したのです。具体的にどのような病気や症状によってワクチンを打てないのか知りたいところですが、都合が悪いからということではなく、プライバシーに関わるからから言いたくないということがあるのかもしれませんが、しかし、すでにグルテンアレルギーを持っていることが公表されていますし、これだけ騒ぎが大きくなっているのですから個人的には本当に医学的な理由があるのであれば、もう少し詳細に説明すべきだと思います。

仮に医学的理由によってワクチンを打つことができないとしましょう。しかし、それが虚偽記載をしていい理由には当然のことながらならないはずなのです。

人に会うこと(自粛)と、マスクについて

ジョコビッチは昨年12月16日にコロナの陽性反応が出ました。ところがその翌日にはイベントに参加し、マスクなしで人々と触れ合っている写真が出回っているのです。そしてその翌日にはインタビューを受けて、またマスクなしの姿が映っているのです。つまり、人に会うことや、マスクについてもまったく気を使っている様子が窺えないのです。

さらに言えば、今回のことに限らず、昨年6月にも彼は陽性反応が出ており、そのときも直後にパーティーを開いて、マスクせずにどんちゃん騒ぎをしていたことが明るみに出て批判を受けたことがありました。つまり、常習的なのです。

まとめ

根拠があってワクチンを打たないし、大勢の人に会うし(自粛もしないし)、マスクもしないということであれば、それを公言して、貫徹すればいいのです。ところが「反ワクチンであるわけではない」(2020年の全米オープンより)とか、「インタビューを受けたのは判断ミス」とか、「たまたまマスクをしていない瞬間に写真を撮られた」など、履行する気があるような言い方するから、整合性が取れなくなってしまうのです。

とは言うものの、現実問題としてワクチンを打たない、会いたい人とも会う、マスクもしない、ということになると、ウイルスをまき散らすことになるだろうことはかなりの程度明白なので、それを正当化するのは相当な荒業であることは明らかです。もしそれが、それでも「可能」と言うのであれば、ぜひその根拠を聞かせてほしいのです。