(new!) オンライン講座の受講生募集

4月26日(金)から、NHKカルチャーセンターでオンライン講座を担当します。カントや倫理学に対する事前知識があっても、なくても構いません。対話形式で進めるので、みなさんの理解度や関心にそって講座を進めていきます。

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本の出版記念イベントを終えて

カント倫理学

『いまを生きるカント倫理学』の出版記念イベントを二度ほど開いてもらいました。一度目は本屋B&Bさんで戸谷洋志さんと、二度目は代官山蔦屋書店さんで吉川浩満さんと対談の形で行われました。お二人にリードしてもらい、なんとか乗り切ることができました。

一般の方からの質疑応答の時間もあったのですが、いくつか無茶ぶりな質問があり、結構タジタジになりました。基本的には本の宣伝を目的として、カントや倫理学にそれほど詳しくない人のために行われたものなので、そういった人から、こちらがまったく想定していないような壮大な質問が来るのも致し方ないことなのだと思っています。

他方で、ネット上には私のカント解釈と、一般的なカント解釈との乖離について指摘(非難)する文面をちらほら目にするので、彼らのような玄人の人にもイベントに参加してもらい、専門的な質問をぶつけてほしいと思っていた(その旨をツイッター上にも告知しておいた)のですが、そういった尖った質問をする人はいませんでした。

イベントで出た質問

ここでイベント内で出た、私がよい質問だと思ったものをいくつか紹介したいと思います。

質問1

カント倫理学に従って生きていると、正直者がバカを見ることになるのではないでしょうか?

確かにカント倫理学は、たとえみんなが誤魔化していても、それでも自分だけは誤魔化すべきではないことを説きます。結果的に自分だけ損するようなことになるのではないでしょうか。

そこで私がイベントのなかで説明したのは、確かに短期的には損したように見えるかもしれないが、短期的な視点に囚われるべきでないということです。むしろ長期的な視点に立てば、倫理性を貫徹することによって得られるメリットは決して少なくないのではないでしょうか。とはいえ、そういったメリットを期待して行為している時点で、そこに倫理的価値はありません。加えて、そういった期待があると、思ったほどの見返りがなかった際に、ダメージを受けることになってしまいます。あくまで、利己的な都合を捨象してそういった行為ができる状態こそが、長期的には自身の幸福に資することをしていることになるのではないでしょうか。

質問2

もうひとつ自身の幸福と関連する質問がありました。

私もロストジェネレーションに属する人間です。この不利な状況下にある私たちはどのように考えて生活していけばよいのでしょうか?

これも一言で言うと、「結果を求めない」ということになるかと思います。結果というのは偶発的なものですし、他者との比較になりがちです。結果に拘れば拘るほど、結果に振り回されてしまうことになるのです。そうならないように、私はあくまで基準は自分のうちに持ち、過程・プロセスを大切にするようにしています。

ただ、イベントが終わってから、これは説明不足だったかもしれないという思いが湧いてきました。私は「結果などどうでもいい」と言うつもりはなく、それでも最低限の結果というものもやはり必要だと思うのです。だって例えば、無職であり、まったくお金もないような状態では、余裕を持つこと、延いては、倫理的な事柄に関心を払うことが難しくなってしまうだろうからです。

質問してくださった方がどのような境遇なのか分かりません。ひょっとすると生きるのに目一杯という状態なのかもしれません。だとすると、まずはそこから抜け出すことが先決になると思います。自身が不幸にならないように努める間接義務がここにあることになります。

さいごに

授業をしていてもそうですし、このようなイベントに参加しても、私は必ず後から「あの説明、別様にすればよかった」とか「あのことについて言いそびれた」といったことが必ず出てきます。自分の力をつけて、克服するしかないのだと思います。

イベントの準備をしてくださった方々、またお金を払って私の話を聞きに来てくださったみなさん、ありがとうございました。